グリット(GRIT)とは
グリット(GRIT)は英語ですので、日本語に訳すときにいろいろな解釈がありますが、近年グリットが注目されてからは「やり抜く力」と表現されています。
しかし、辞書には「(どんな困難にも耐える)根性、気骨」というような表現がされており、こちらが昔ながらのグリットの解釈だといえそうです。
なんだ結局は古くさい根性論か、と思われるかもしれませんが、現在世界で注目を集めている「成功の心理学」の研究において、さまざまな分野でもっとも成功している人々には強いグリットがある、ということが確認されたのですからばかにできません。
さらに、グリット研究の第一人者であるアメリカのペンシルベニア大学心理学教授のアンジェラ・ダックワース氏はマッカーサー賞(別名:天才賞、GHQのダグラス・マッカーサーとは無関係)を受賞しています。
この賞はアメリカ国民または居住者を対象にしているため、日本では注目されませんが、たいへん名誉のある賞です。
その研究結果は彼女の著書「GRIT(邦題:やり抜く力)」にまとめられています。
また、アメリカの教育省はすべての子供たちにグリットを教えることを最重要課題とし、ビジネスやスポーツなどの世界もグリットに大きな注目を寄せています。
グリットはそれだけ重要な概念として認められているのです。
グリットと自己肯定感
ちなみに、自己肯定感を育む教育も注目されていますが、グリットには「自分なんてまだまだ」というある意味自分を否定する感情が必要です。
グリットが強い人は決して自分に満足せず、ありのままの自分なんて認めません。
どこまでも成長を求め、結果にこだわり、自分を追い込んでいきます。
そして、そんな自分に満足します。
自尊心は能力に由来し、その逆ではないからです。
グリット(GRIT)をもっとくわしく
グリット(GRIT)の概念をわかりやすくするために、自身もグリットの塊であるようなリンダ・キャプラン・セイラー氏とロビン・コヴァル氏は、著書の「Grit to Great(邦題:GRIT 平凡でも一流になれる「やり抜く力」)」の中で、グリット(GRIT)を頭文字の4つの要素に分けて説明しています。
その4つの要素とは、「ガッツ(Guts)」「レジリエンス(Resilience)」「イニシアチブ(Initiative)」「テナシティ(Tenacity)」です。
それぞれの単語には以下のような意味があります。
- Guts:根性、度胸、勇気
- Resilience:跳ね返り、弾力性、反発力、回復力、復元力
- Initiative:手始め、先手、主導権、率先して、自発性
- Tenacity:固執、粘り強さ、不屈、しつこさ、執念、執着
これを一言で表現すれば「グリット(GRIT)=やり抜く力」です。
ですが、ただやり抜こうとするのではありません。
根性と勇気(Guts)をもって、失敗しても挫折してもその経験や悔しさをバネにして跳ね返るように回復し(Resilience)、目標にむかって自らを主導し先手を打ち(Initiative)、決してあきらめず結果にこだわり粘り強く(Tenacity)取り組むのです。
このように見ると、グリットはとても泥くさい意味の言葉であることがわかります。
しかし泥くさいからこそ、グリットがあればだれにでも目標を達成するチャンスがあります。
グリットは才能を必要としない
グリットはIQやルックス、身体的健康や裕福さといった才能を必要としません。
というよりも、現在では何かを成し遂げるのにそもそも才能は必要ないと考えられるようになってきています。
成功に関する一番の要因は、どれだけ時間をかけ、どのように努力したかです。
むしろ才能があると「思っている」人はグリットが弱く、時間をかけて努力しないので成功する可能性が逆に低くなるともいわれています。
だからといって、ただ継続して目標に取り組むだけではうまくいきません。何十年も同じ仕事をしていても、仕事のレベルがまったく上がらない人はたくさんいます。
常に上を目指し、目標達成に必要なスキルを上達させるべく意図的に取り組むことが必要です。
ポイントは自分の限界の少しだけ上のレベルに挑戦し続けることです。
自分に負荷をかけ続けることで、少しずつ、しかし際限なく自分の能力を上げることが可能になります。
グリットは情熱を必要とする
グリットは短期的な目標に対してはあまり役に立ちません。
今度のテストではよい点をとろう、次の試合ではよい結果を残そう、会社からあたえられたノルマを達成しよう、としても単純に時間が足りないのです(突発的な危機を切り抜けるのにはグリットのあきらめない精神が役立ちます)。
グリットが有効なのは、何年ものあいだ、さらには人生をかけて達成したい目標や夢がある場合です。
もちろんグリットがあっても目標を達成するのは簡単ではありません。
グリットに必要不可欠な要素、それは「情熱」です。
何を目指すのか
グリット(GRIT)で目標に取り組むというのは、毎日毎日開けても暮れてもその達成にこだわり、何年もの時間をかけるということです。
そしてテレビやゲームやマンガ、スマホやSNSなどの娯楽、人付き合いにかける時間などをできるだけ減らし、ただひたすらに打ち込む必要があります。
つまり目標の達成にむけて多くのものを犠牲にしなければならないのです。
時間は有限です。余計なことに時間をさいていては、ゴールが遠のくばかりです。
そうするには、それだけのことをする必要性を感じるほどの、本当にどうしても達成したいと思える目標がなければなりません。
重要なのは何を望み、何を目指すかです。
自分が本当に望むことを成し遂げようとするとき、そこには情熱が生まれます。
その情熱がグリットを生みます。
他人から押し付けられた課題やノルマにグリットで取り組もうとしても、途中で燃え尽き、倒れてしまうでしょう。
グリット(GRIT)を使いこなす
自分が望み目指すものがわかったとしても、グリット(GRIT)を維持し続けるのは困難かもしれません。
理想と現実のギャップ、目標に手が届かないのではないかという不安、度重なる失敗、それを克服するためのグリットですが、それでも心が折れそうになってしまうことはあります。
成長思考
グリットを維持するための方法は「成長思考」です。
失敗や停滞はずっと続くものではない、人は成長するのだ、と信じる成長思考をすると失敗は怖くなくなります。
むしろ積極的に行動し、失敗し、間違い、そこから学べるようになるのです。
そもそもグリットは人によって強弱がありますが、学習によって強くすることもできます。
そしてグリットを強くする大きな要因こそ、失敗を経験し、それを乗り越えることなのです(クラブ活動をやめずに継続することなどはグリットを強化するのにもってこいです)。
もうダメだと思うほどの状況を乗り越えてこそ、グリットは強くなります。
グリットを鍛えたいなら失敗をチャンスととらえ、そこから這い上がる努力をしましょう。
言い訳をするのではなく、「どうすればよかったのか」と自分に問いかけるのです。
楽観的な心のつぶやき
グリットを維持するためのもう一つの方法は、「楽観的な心のつぶやき」です。
つまり自分に対して「だいじょうぶ、何とかなるさ」「今が苦しくても、やり続ければ結果はついてくる」「この失敗はとてもよい経験になった、次に活かそう」と心の中で語りかけ、自分を励ますのです。
自分で自分を励ますなんて変な気もしますが、困難を前にしたとき、この方法が驚くほど役に立ちます(行きすぎた楽観主義は身を滅ぼしますのでほどほどに)。
計画を練る
また、グリットを有効に活用するために計画を練ることも大切です。
この作業は無視されがちですが、行き当たりばったりでは効率が悪くなり時間を無駄にしてしまいます。
いつまでに、何を、どのようにするのか、しっかりと考えましょう
注意すべきこと
グリット(GRIT)で何かに取り組もうとするとき、気をつけるべきことが二つあります。
一つは、グリットは魔法のような成功法則ではない、ということです。
何かを成し遂げた人たちにグリットがあるのは確かなことですが、グリットがあるからといって必ず何かを成し遂げられるわけではありません。
人々の注目を集めるのは目標を達成した強いグリットをもつ人たちであり、グリットさえあれば成功するように錯覚してしまいますが、そうではないのです。
強いグリットをもちながらも、目標を達成できない人はたくさんいるでしょう。
結局、「グリット=やり抜く力」は結果論なのかもしれません。
表現としては「グリット=根性」のほうがしっくりきます。
もう一つは、達成不可能な目標を設定しないことです。
だれもが、目指す分野でナンバー1になったり億万長者になれたりするわけではありません。
現代社会はさまざまな情報にあふれ、いたるところでずば抜けた成功をした人たちの姿を見せつけられます。
そういった姿に影響されて描いた夢のほとんどは、そもそも実現不可能です(大きな成功になればなるほど、運の要素も大きくなってきます)。
結果は後からしかついてこないのです。
成功の定義は自分で決めなくてはなりません。
あきらめることも大切
グリットを発揮してトップを目指すのは決して悪いことではありませんが、実現不可能な夢を追ってグリットに足を引っぱられると、自分やまわりの人を悲しませるだけです。
何度挑戦してもダメなときは思い切ってあきらめましょう。
いったん立ち止まって、自分なりの成功とは何なのか、再確認しましょう。
自分が本当にやりたいこと、家族や社会など周囲に喜びをもたらすこと、生産的なことがらに目を向けるのはよい方法です。
達成不可能な目標に見切りを付けたら、また新しい目標にむかって取り組めます。
それまでの経験やスキルは決して無駄になりません。何より自分の限界を確認できたことは大きな収穫です。
成果に結びつかない活動とはおさらばし、成果を生む活動に時間を使いましょう。
参考:やり抜く力 GRIT
GRIT 平凡でも一流になれる「やり抜く力」
マインドセット:「やればできる!」の研究
超一流になるのは才能か努力か?