妥当性の錯覚とは
私たちの直感は、ごくわずかな情報を元にそこから理論を飛躍させ結論を導き出します。
そして、結論のつじつまさえあっていれば、それは妥当な結論だと自信をもって思い込んでしまいます。
結論を導くための情報は少ないほど都合がよく、情報の量と質は問題にされません。
つまり私たちは、妥当だと信じていることのうちのいくつか(あるいはほとんど)について、何の証拠も持ち合わせていないのです。
以上のことを踏まえると当然の事ではありますが、直感に対して抱く自信の強さはその妥当性とは何の関係もありません。
ですので、自分の判断は絶対に正しいと自信満々に言う人(自分も含む)のことは、絶対に信用しないよう注意しましょう。
錯覚ではない妥当性
私たち人間にとって、直感的に妥当だと判断してしまうことの多くが錯覚であるのは、脳の構造上しかたがありません。
しかし、以下の2つの基本的な条件を満たす環境で専門的なスキルを身につけた場合、直感的な判断が真に妥当である可能性が高まります。
・十分に予見可能な規則性を備えた環境であること
・長期間にわたる訓練を通じてそうした規則性を学ぶ機会があること
引用元:ダニエル・カーネマン(2014)『ファスト&スロー下』早川書房(23)
上記のように、一定の規則性がある環境で培った直感を、予測可能な手掛かりが存在する状況で働かせる場合、ある程度の精度を維持できるのです。
たとえば医者や看護師、アスリートや消防士がそれぞれの専門分野で発揮する直感がそれに該当します。
かといって専門家も万能ではありません。一定の規則性がない予測不能な状況下では、いかに専門家といえどその直感の的中は運にのみ左右されます。
また、そもそも予測不可能な分野の予想を生業としている専門家(ファンドマネージャーや政治評論家)の直感の予測妥当性はゼロに等しいといわれていますので、当てにしないよう注意が必要です。