ギバー・テイカー・マッチャーとは
世の中には、人をタイプ別に分ける数多くの分類があります。
その中の1つに、ギバー・マッチャー・テイカーという3つのタイプに分けたものがあります。
ギバー:「与える人」
人に対して「何かしてあげられることはないか」と考えている
テイカー:「取る人」
人に対して「私のために何をしてくれるのか」と考えている
マッチャー:「バランスの人」
人に対して「何かしてくれたら、私も何かしてあげる」、「何かしてあげたら、私にも何かしてね」と考えている
※ギバーは「give:与える」、テイカーは「take:取る」、マッチャーは「match:一致」から
とてもシンプルで分かりやすい分類です。
3つのタイプは使い分けられる
一般的な価値観からすると、ギバーはいい人でテイカーは嫌なヤツ、マッチャーは普通の人です。
自分のまわりの人を思いうかべれば、だれがギバーでだれがテイカーなのか想像できるかもしれません。
しかし実際には、私たちはこの三つのタイプを自分の立場や相手との関係によって使い分けています。
例えば、自分の家族や仲のよい友だちや後輩、恋人に対してはギバーとしてふるまい、よく知らない人や敵対している人に対してはテイカーとして行動し、対等な関係の人に対してはマッチャーとして接する、というように。
それでも、だいたいにおいて相手とどのように接するかの傾向は、個人のスタイルとしてあるでしょう。
しかし、仕事に関しては、たいていの人がこのうちのどれか一つのタイプとして行動しているといいます。
そう指摘するのは、ビジネスの場や組織の中において、与えるという行為がどのような影響をおよぼすのかを研究した、アメリカのペンシルベニア大学ウォートン校の組織心理学者であるアダム・グラント教授です。
グラント教授の研究結果は、著書の『GIVE AND TAKE(邦題:GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代)』にまとめられています。
ギバー・テイカー・マッチャーの割合
ギバー・テイカー・マッチャーはどのくらいの割合で存在しているのでしょうか。
世界中のさまざまな業界で働く3万人以上を対象とした研究では、その内訳は下記のとおりです。
- ギバー:25%
- テイカー:19%
- マッチャー:56%
言いかえると、職場にはいい人(ギバー)と嫌なヤツ(テイカー)がおよそ10人中2人ずついて、普通の人(マッチャー)が10人中6人の割合でいる計算になります。
なんとなく自分のまわりの状況と似ていないでしょうか。
ちなみに、ほとんどの人はマッチャーでギバーは20%ほどしかいないはずですが、あなたはどのタイプに当てはまりますか?と質問すると、自分はギバーだと思う人の割合は20%を大きく超えます。
テイカーですら自分はギバーだと答えます。
自分に対する評価はかなり甘くなりがちなので注意が必要です。
テイカーにご注意
ギバー・テイカー・マッチャーの中で注意すべきタイプ、それはもちろんテイカーです。
テイカーは「取る人」を意味しますが、なにも相手のものを直接うばい取ったりするわけではありません。
テイカーとは、相手を自分のために利用してやろうと考えている人のことです。
そのためテイカーは、人を助けたり人に気をつかったりといった、親切や優しさを見せることがほとんどありません。
テイカーが他者に何かを与えることもありますが、それは見返りとして手にするものが与えたものの価値を上回る場合のみです。
またテイカーは実力者や権力者には大人しく従順ですが、弱いものに対しては容赦しません。
お店の従業員やタクシーの運転手など、立場の弱い人に対して態度が悪いのが特徴です。
組織の中にテイカーがいると不信感が広がり、生産性は大きく低下します。
残念ながらテイカーは他人をうまく利用するので、職場ではよい業績を残すこともあります。
出世し、裕福になる傾向もあります。
それでもテイカーがうまく立ち回れるのは、基本的に最初だけです。
時間がたつと周りもその本性に気づき、だいたいにおいてテイカーは孤立しいきます。
マッチャーの力
テイカーを排除するカギはマッチャーが握っています。
マッチャーはバランスをとろうとするため、与えれた分はきっちり返します。
つまり親切には親切で答え、悪意には悪意で答えます。やられたらやり返すのです。
そのため、いつかは集団の大半を占めるマッチャーによって、テイカーには裁きがくだされます。
結果として、テイカーは長期的に見れば損をします。
そして運よくギバーとマッチャーだけが残った組織の生産性は、時間とともに劇的に向上していきます。
ギバーは積極的に親切な行動を行い、マッチャーはそれにお返しをするので親切の輪が広がっていくのです。
まさに理想的な環境です。
与える人、ギバー
ギバーは「与える人」を意味し、人に対して何かしてあげたい、何か手助けできることはないか、いつも考えています。
とても優しい人たちです。
しかし、先に紹介したグラント教授がさまざまな研究を解析した結果わかったことは、いささかショッキングな内容でした。
もっともテストの成績が悪い医学生、もっとも生産性の低いエンジニア、もっとも商品を売れない営業マンは、みんなギバーだったのです。
なぜでしょうか。
損するギバー
ギバーが個人的に損をしてしまうのは、自分のことより他者のことを優先するからです。
ギバーの学生は自分の勉強時間が取れなくなり、ギバーのエンジニアは頼まれごとに手がいっぱいで自分の仕事が終わらず、ギバーの営業マンは顧客のためになりそうにない自社製品を売ることに消極的です。
なんだか悲しくなる話ですが、だからこそギバーの存在は重要なのです。
ギバーが自分を犠牲にする、その分の恩恵を私たちは受けています。
現に組織の中で「与える」行為の発生頻度が高いほど、企業の利益率や顧客満足度、従業員の定着率が高くなることが確認されています。
人々が助け合い、知識を共有し合い、面倒をみあう頻度が高ければ高いほど優れた組織になります。
ギバーは組織に改善をもたらすのです。
(親切の輪は時間をかけて広がっていくので、ギバーがいるからといってすぐに効果が出るわけではありません)
成功するギバー
ギバーの人たちは個人的に損ばかりしているのでしょうか。
幸いなことに、そうではないようです。
グラント教授はギバーの成績が最低であることを示す一方で、成績のトップもまた、ギバーであることを発見しました。
最優秀の医学生、素晴らしい業績を残すエンジニア、会社に大きな利益をもたらす営業マンは、すべてギバーだったのです。
ギバーはただのお人よしとなってしまうリスクはあるものの、他者のことを第一に考えて行動するため周囲の人たちから絶大な信頼をよせられるようになり、みんながたびたびチャンスを与えてくれるようになります。
ギバーであることの恩恵は時間とともに大きくなり、結果としてずば抜けた成功をおさめる可能性がでてくるのです。
成功するギバーと損するギバーの違い
ギバーはさまざまな分野で成績の最上位と最下位を占めています(もちろんその中間にも位置していますが、最上位と最下位を占めるのはギバーです)。
では、成功するギバーとうまくいかないギバーの違いは何なのでしょうか。
それは自分のことをどれだけ考えてあげられるかにかかっています。
ギバーはとても優しい人たちですが、その反面相手を信用しすぎる、相手に共感しすぎるという弱点があります。
その結果、うまくいかないギバーは自分を過剰に犠牲にしてまで人を助けてしまうのです。
ギバーを苦しめるテイカー
特にギバーが苦しむのは、近くにテイカーがいる場合です。
ギバーはテイカーにも親切にします。
逆にテイカーはギバーに何の見返りも与えず、利用し続けます。
ギバーは与えることを優先し、別に自分が何かを与えてもらおうとは思っていないので、テイカーに利用されている事実になかなか気がつきません。
むしろ、自分にはまだできることがあるはずだとすら考えています。
そして、いずれ燃え尽きてしまいます。
一方、テイカーは他人を利用するためのものだとしか考えていないので、自分がやっていることが悪いことだとは思いもしません。
ギバーを助けるマッチャー
ギバーがテイカーに利用されているのを不公平だと敏感に感じとれるのはマッチャーです。
前述したように、マッチャーには公平であることを望むバランス感覚があります。
集団の大多数を占めるマッチャーが協力し、不公平な状況を改善しようと行動すればギバーは救われます。
集団を向上させる力をもつギバーですが、マッチャーの助けがなければその力を発揮することができないのです。
自ら道を切り開く、強いギバー
ギバーが成功するにはテイカーを罰してくれるマッチャーが仲間にいることが重要ですが、自ら成功への道を切り開くギバーも存在します。
このタイプのギバーは、自分を守るため与え過ぎないように注意しています。
与え過ぎると自分が消耗してしまうこと、テイカーという自分とは真逆の発想をする人間がいることに気がついています。
そしてテイカーを相手にするときは自らがマッチャーになり、与えるばかりではなく、ときにやり返すのです。
しかし、ギバーは自分が楽しく有意義だと感じることに取り組み、与えたことの影響が前向きに評価される状況にあるとき、いくら人に与えても燃え尽きることはありません。
むしろ与えれば与えるほど気力が回復し、ますます人に与える行動をとります。
成功を分かち合うギバーと独占するテイカー
ギバーが成功するとき、その成功はまわりの人びとに波及していきます。
なぜならギバーは成功をみんなで分かち合うのはもちろんのこと、自分だけではなくグループ全員が得をするように行動するからです。
ギバーは自分よりも周りの人が喜ぶことに喜びを感じるのです。
逆にテイカーが成功する場合、その成果はテイカーだけのものとして独占されます。
協力した仲間が感謝されることもありません。
結果としてテイカーは人望を失いますが、そんなことは気にしません。テイカーは自分以外もテイカーだと思っているので、そもそも人を信用していません。
そうやってグループの中には人間不信が蔓延していきます。
ギバーだって受け取っていい
成功するギバーにとって、与え過ぎないことに加えもう一つ大事なポイントは、自分が受け取る側になったり、助けてもらう側になったりしてもいいと理解することです。
うまくいかないギバーは自己犠牲を喜んで受け入れるものの、自分が助けてもらうことに居心地の悪さを感じてしまいます。
そんなギバーにとっては、見栄を張らず、たまには他人に迷惑をかける勇気をもつことが大事です。
助けてもらったあとに思う存分お返しをしましょう。
それでもギバーが他人に迷惑をかけたくないという思いから、人に助けを求めたり要求をしたりすることができないときは、自分が家族や守るべき人の代理人であるという意識をもって行動するとよいかもしれません。
ギバーは自分のためよりも人のために動くときに力を発揮します。
自分のために助けを求めることは申し訳ないと感じても、だれかのためになら恥をかくこともお構いなしで行動をおこせるはずです。
守るべき対象がいなければ、自分を自分の代理人と見立てて行動するだけでも、ただのお人よしの自分から解放される可能性があります。
見た目や印象からは、どのタイプかわからない
自分に対しての相手の振る舞い方が、ギバー・マッチャー・テイカーのどれに当てはまるかという見分け方は単純で、つい、あの人はこのタイプであの人はこうだ、と考えたくなりますが、その人の印象だけで決めつけてしまわないよう注意が必要です。
たとえばギバーでも人に悪い印象をもたれる場合があります。
このタイプのギバーは、よかれと思って人に正論をどんどんとぶつけていきます。
人は間違いを指摘されたり、言葉にしなくてもいいようなことをわざわざ言われたりすると、カチンと頭にきてしまうものです。
そしてそんな相手に対して人は、めんどうくさいヤツ、という印象をもってしまいます。
テイカーも同じようなことをしますが、彼らの行動原理はギバーとまったく逆です。
テイカーが他人に意見をぶつけるのは、自分の利益を守るため、または相手を攻撃したり陥れたりするためです。
自分では思ってもいない言葉だけの正論を振りかざし、ときには嘘もおりまぜて、相手の痛いところを突くのが得意技です。
いいヤツに見えてしまう詐欺師テイカー
厄介なのは人当たりのよいテイカーです。
通常テイカーは嫌なヤツと認識されていますが、人当たりのよいテイカーは表面上は魅力的でカリスマ性をもち、みんなの人気者であることも珍しくありません。
実力を兼ね備え、言葉巧みに他人を利用しますが、それを相手に悟らせません。
相手が何かおかしいと気づいても、気のせいじゃないか、考え過ぎじゃないのか、と思わせるだけの雰囲気をもっています。
そして相手を利用するために、何かをプレゼントすることを手段としてよく使います。
これは相手のためを思ってのことではなく、人が贈り物をされたら何かお返しをしなければならないと思う習性を利用した行動です。
これにはギバーもマッチャーもだまされます。
そして喜んでテイカーに利用されてしまいます。
だまされないのは同じテイカーだけです。
人当たりのよいテイカーはまさに詐欺師タイプです。
詐欺師テイカーの見分け方
人当たりのよい詐欺師タイプのテイカーを初見で見分けるのは残念ながらほぼ不可能です。
しかし、おかしいと思った相手がその人より立場の弱い人にどう接するかを見るのは重要です。
例えば、目上の人に対してはいい顔を見せるのに、職場の部下やお店の従業員などにはまったく気をつかわず、高圧的な態度ばかりとるのであれば気をつけましょう。
見分けようとし過ぎるのも危険
ギバーは人のために、テイカーは自分のために、マッチャーはその中間の性質を持って行動しているのが特徴(特に仕事の場においてその傾向が顕著になる)ですが、人の本性を知るにはある程度の時間がかかります。
見た目や印象だけで人のタイプを見分けようとしても、思込みや勘違いをするだけです。
せめてやっかいなテイカーだけでも見極めたいと思っても、疑心暗鬼になってしまい自分が周囲に悪影響をもたらす存在になりかねません。
そんなことよりも、自分が人に何かしてあげられることがないかという視点をもち、見返りを求めず、他者からの好意はしっかり受け取り、その好意にはお返しをする、
という成功するギバーのパターンを参考に行動したほうが、成長や成功に一歩近づくかもしれません(おそらく見返りを求めないのが一番の難関です)。
自分のことしか考えられないテイカーにとってさえ、身勝手な行動は身を亡ぼす、しかし他者のために行動することは自分を含め周囲の環境さえもよくする、
それが結局は自分の利益を最大化する、と理解すれば、それこそ自分のために、人に何かしてあげるギバーの特性は魅力的なはずです。
人と競争することに意味はありますが、人に貢献することにはさらに大きな意味があります。
人に助けてもらうことはありがたいことですし、なにより人を助ける行動は自分自身を幸せな気持ちにしてくれます。
つまり、ギバーのように積極的に人を助けることは、自分の成長や成功につながるばかりでなく、より幸せな人生を送るための一つの方法となるのです。
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ギバー・テイカー・マッチャーという3つの人のタイプについて見てきました。
実際はこんなにわかりやすい区別ではなく、「与える」と「取る」特性はさまざまな比率で個人の中に存在すると思いますし、時と場合、気分によっても変わってきます。
人は余裕がなければお返しをしたくてもできませんし、忙しいときには身勝手な行動を選択しやすくなります。
それでも基本的な性質として、特に仕事の場においては、人はこの3つのタイプに分類されるというのは説得力があります。
私たちの多くはマッチャーで、人にお返しはするけれども積極的に人を助けることはなかなかできないものです。
人に対してせっかく優しくしても、殺伐とした社会では無視され、踏みにじられることもあります。
しかし、ギバーのように親切を続けていけば、それに応えてくれる人が見つかるはずです。
なにしろ世の中の8割はギバーとマッチャーです。
そういった人たちと良好な関係を築いていけば、人生をより豊かなものにすることができるかもしれません(くれぐれもテイカーにはご注意を)。
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