焦点錯覚とは
焦点錯覚とは、目の前で起きていることを過剰に評価してしまう現象です。
心理学者にしてノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏は、焦点錯覚を次の一分でわかりやすく表現しています。
あなたがあることを考えているとき、人生においてそのこと以上に重要なことは存在しない
ダニエル・カーネマン(2014),ファスト&スロー,早川書房,下巻,303
つまり、私たちにとっては自分が見ているものや、ある瞬間に考えていることがすべてになるのです。
もちろん、目の前にあるもののほかにも重要なことはたくさんあります。
世界の平和や子供たちの将来、恋愛やお金や自分自身の幸せ、などなど数え上げたらきりがないかもしれません。
しかし、今日の夕飯をどうしようかと考えているとき、それ以上に重要なことなどあるでしょうか。
焦点錯覚はつねにおきていて、それが錯覚だと言われてもどうすることもできません。
そもそも人間は一度に一つのことしか考えられないのです。
焦点錯覚に気をつけよう
焦点錯覚が問題になるのは、大きな買い物(車やマイホーム)や環境の変化(引っ越しや転職)を考えているときです。
目の前のことだけに焦点を当てていると、それが将来の幸福に与えるメリットを過大評価してしまいます。
そして、誤った願望を抱いて大きな決断をし、それ以外に選択できたはずのさまざまな可能性を簡単に切り捨ててしまうのです。
たとえば、乗り心地がよくてかっこいい新車の購入を考えているとき、その時点でのワクワク感がずっと将来まで続くと錯覚して購入を決断するかもしれません。
このとき、新しい車は時間が経つにつれ傷や汚れと共に古くなり、また生活の一部となって日常で意識されることはほとんどなくなる、ということはまず考慮されません。
そして、車のランクを落とせば他のことに使えはずのお金の価値は、逆に過小評価されてしまうのです。
私たちに見ているものがすべてだと思い込ませる焦点錯覚は強力な認知上のゆがみのため、避けることは非常に困難です。
ですので、何か大事な決断をする際はその場の勢いで決めずにいったん持ち帰りましょう。
冷静になってよく考えれば、その決断をするメリットとデメリット、それを選ぶことで選べなくなる他の何かについての正しい評価、などが見えてくるはずです。